灰色の冬空が続くある日、顧客の不動産管理会社様から、
「管理しているマンションのご入居者様から、今すぐに鍵交換をしてくれる業者を紹介してほしいと連絡が来たのですが、今日鍵交換のご対応可能でしょうか?
可能であれば、ご入居者様に連絡して、直接やり取りして頂けますでしょうか」
とお電話を頂きました。
「ありがとうございます。本日中の鍵交換可能です」
とお伝えし、教えて頂いた電話番号へお電話しました。
教えて頂いた電話番号に電話を掛けたところ、男性の方がお出になられました。
「事情がありまして、今すぐに鍵交換をして頂きたいのですが可能ですか?」
とおっしゃられました。
ちょうどその時は、予約に空きがあるタイミングでしたので、今からお伺い可能ですとお伝えし、急いでお客様宅へと向かいました。
現場に行ってみると、オートロックが付いた立派なマンションでした。
エントランスの集合玄関機のインターホンを鳴らしてオートロックを開けて頂き、お客様のお家に行くため、エレベーターに乗って上の階へ。
玄関の前に着き、お部屋のインターホンを鳴らすと、50代くらいの男性が出てこられました。
ところで、こちらのマンションは、一階のエントランスにオートロックが付いており、お部屋とオートロックが共通の鍵で開く仕様のタイプでした。
しかしながら、オートロックとお部屋の鍵を共通にするためには、メーカーに注文をせねばなりません。
マンションのオートロックの鍵は一軒一軒違うため、メーカーでの受注生産となるからです。
そしてその納期ですが、部品や注文する時期によりますが、通常時で約3~4週間かかり、引っ越しシーズンなどで、メーカーに注文が殺到する時期は納期がさらにが延びます。
その時は引っ越しシーズンではありませんでしたが、いずれにせよオートロックとお部屋共通の鍵での鍵交換がご希望の場合は、当日の交換が出来ません。
入荷後の交換となってしまうので、その旨をお伝えいたしました。
オートロックとお部屋共通の鍵だと納期がかかることをお伝えするとお客様は、今すぐに鍵を取り替えてほしいのでオートロックの鍵と別で良いとおっしゃられました。
そして、
「オートロックと別で大丈夫なのですが、防犯性能の高いものにして下さい」
とおっしゃられた後、
「実は、別れた妻が勝手に鍵を開けて家に入ってきているようなのです。
それで今すぐに鍵交換をしてほしいのですが、もし万が一、鍵交換をした後に別れた妻が、鍵屋さんを呼んで鍵開けの依頼をすることがあった時に、簡単に鍵開けできないものにして欲しいのです」
とおっしゃられました。
今日鍵交換したとして、後日その別れた奥様とおっしゃる方が、たまたま当店に鍵開けの依頼をして来たなら、当店は事情を知っているので、何かと理由を付けて断るでしょう。
しかし、ここ福岡にはたくさんの鍵屋さんがあります。
当然当店に鍵開けの依頼が来ず、別の業者さんに鍵開けの依頼の連絡が入ることもあるでしょう。
と言うかその可能性の方が高いでしょう。
鍵の業者は鍵開けの際には(通常は)、鍵開け前に身分証の確認を行なうのですが、その別れた奥様とおっしゃられる方が持っている身分証明書に記載された住所が、この住所だったなら、その依頼された鍵屋さんは鍵を開けるでしょう。
今、(通常は)とわざわざ書いたのは、この業界にはたくさんの業者があり、お恥ずかしながらまともに確認などをしない業者が一定数あるようだからです。
私はあまり他社批判はしたくないのですが、こればかりは本当にあるようなので、今回はあえて書くことに致しましょう。
住宅の鍵開けでは件数が少ないのですが、自動車やバイクの(鍵を紛失したから鍵を作ってほしい)と言う依頼の中には、明らかにこれは怪しいと言う依頼がちょこちょこあります。
早い話が、自分の家・車・バイクではないのに、鍵を開けさせようとしたり、鍵穴から鍵を作成させようとする輩がいるのです。
私は、依頼者が怪しいと感じた場合は、提示してもらう身分証明書類を増やします。
疑いが晴れないときは、例え現場に行った後でも、作業をせずに帰ります。
(本当に本人ならば、確認物が増えようがきちんと提示する事が出来るはずなので)
もちろん、せっかく現場まで行ったのに帰ると言うことは、当然無駄足になってしまうと言う事になるのですが、無理に作業して、万が一その依頼者が犯罪者だった場合、泥棒の片棒を担ぐ事になってしまい、シャレになりませんから。
帰ろうとすると時々、
「今まで頼んでいた業者は、身分証明書なんかなくても作ってくれたぞ」
と言われることがあります。
「じゃあ、そこに頼めばいいじゃないですか」
と言うと、だいたい
「その業者は潰れた」とか「連絡が取れなくなったからお宅に依頼してやった」
などと言われます。
あの業者は身分証明書の確認などせず鍵作成をしているらしいと噂を聞いてからしばらくした後、その業者が廃業していなくなってしまっていたり、
もっとひどい場合は、廃業したと思ったら、名前を変えて違う県でまた鍵屋をしていたりと言う事もあります。
(名前を変えたり、違う県に行ったり、代表者を変えたりしても、同じ業界なので、どこかしこから情報が入るため、分かったりします)
本当はこういった事は、業界的には恥ずかしいことなので書きたくないのですが・・・
ちなみに以前、当店に入った住宅の鍵開けの依頼で、こんな怪しいものがありました。
「身分証明書は持っていない。しかしこの家は自分の家だ。開けてもらえばその証拠がある」
と言うので、
「開けたら身分証明書があるのですね?」
と尋ねると
「いや、開けても身分証明書はない。しかし、冷蔵庫の上に何の鍋があるか、どこに何の置物が置いてあるか言える」
と言われました。
怪しすぎる。
ちなみにこの現場は、電話で最初に尋ねた時、身分証明書を持っているとのことで現場に行ったのですが、実際に行って、現場にいた男性に身分証の提示を求めると、上で書いた通り身分証を持っていないが、家の中に置いてるものは分かっていると言い出したのです。
男性二人連れだったのですが、どちらの身なりも明らかに怪しい感じでしたので、その時はすぐに引き上げました。
と言っても、素直に帰れる事は少なく、帰ろうとすると、
「これは俺の家と言ってるだろうが」
と逆ギレされることもしばしばあります。
(カギの救助隊福岡が、顧客の不動産業者様や弁護士法人様や司法書士様以外からの鍵開けの依頼を受けるのを止めたのは、この辺りの事情もあるのです。
こう言うのに引っ掛かってしまい、時間ばかりが喰われ、前々から鍵交換の予約をしてくださっているお客様との約束の時間に遅れそうになると言うことが何度かあったため、予約をして頂いたお客との約束の時間遅れることはあってはならないと思い、止めました。
お察しください。)
話が横道に逸れましたが、
(いやそれにしても、随分逸れてしまいましたね)
そういうわけで、お客様のご希望により、壊さないと鍵が開けれないものに交換を致しました。
ご希望通り、その場で、防犯性能の高いシリンダーへ取り替えを行なったところ、お客様が随分と喜んで下さいました。
「これで今日から安心して暮らせます」
とおっしゃられていました。
カギの救助隊福岡では、かなりの種類の在庫を持っていますので、ほとんどの場合その場で鍵交換が出来ます。
作業が終わった後、
(いやしかし、あそこまで喜んで頂けるとは・・・)
と、ほっと一安心しました。
それから2~3ヶ月経ったある日、とある女性から
「今すぐに鍵交換して欲しい」
と依頼が来ました。
結論を先に申しますと、先日交換したお家の男性がおっしゃられていた、別れた奥様と言う方からの依頼でした。
(回りくどい言い方をしているのは、別れておられるのかわからないからです)
しかし、お電話を頂いた時点ではそれが分かりませんでした。
と言うのは、男性からご依頼を受けた時は、顧客の不動産業者様からのご紹介でしたが、今回この女性のお客様は、直接当店に電話を飛び込みで架けてこられたからです。
ですので、本当にたまたまその奥様がお電話された先が、当店だったと言うわけです。
女性の方からお電話を頂いた時、マンション名をお聞きして、
(そう言えば、2~3ヶ月前、そのマンション行ったなぁー)
と思いました。
もちろん、そのマンションに何度も行ったが、全て違うお客様のご依頼だった、と言う事は珍しくありませんので、その時は全く気に留めていませんでした。
何しろ、顧客の不動産業者様やマンション経営をされているオーナー様が所有・管理しているマンションで、当店が何度も行くのでデータを管理している物件だけでも500物件以上あります。
(そのうちオートロックとお部屋共通の鍵で開くシリンダーの在庫を持っているのは260物件ほどあります)
そしてデータ管理していないが、行ったことのある物件を含めると、これまでに何千・何万物件と行っているのですが、当然その中には、重複してお伺いした物件がたくさんあります。
そのため、女性の方からマンション名を聞いたときは、特に気にも留めていませんでした。
このように、同じマンションに何度も行くことが多々あるので、
(そう言えばそのマンションこないだ行ったなぁー)
と思った程度でした。
以前お伺いした家だとどこで気付いたかと言うと、お家に着き玄関の鍵穴を見た時です。
自分はなぜか、鍵穴を見ると、
(あぁ、あの時あんな話したなぁ)
とか、
(来た時にドアがどの方向にずれていたのでついでに直したなぁ)
とか、
(あのネジが緩んでいたので締めたなぁ)
とか、その時の事を事細かく思い出します。
それで、あぁここは以前来た家だと思い出しました。
とは言え、以前男性からのご依頼で、鍵交換に来た事を言ったりはしません。
もちろん、聞かれれば別ですが。
(以前と同じように)こちらの女性のお客様に、オートロックとお部屋共通にする場合は、納期がかかることをお伝えしました。
すると、今すぐに鍵を取り替えして欲しいので別で大丈夫ですとの事でした。
当然私は、プライベートな事、プライバシーに関わることは聞きませんので、すぐに交換いたしますとだけお伝えしました。
すると、その女性は、
「防犯性能の高い鍵で替えて欲しいのです。実は別れた夫が勝手に家に入ってきているようで・・・
もし別れた夫が鍵屋に鍵開けを依頼しても、簡単に開けられないものにして欲しいのです」
と、奇しくも同じ事をおっしゃられました。
(同じ事をおっしゃるとは、仲が良いんですかね?)
以前(その別れた夫と呼ばれる男性の方からのご依頼で)交換した鍵が、簡単に開けることが出来ない良い物でしたので(自分がおすすめしたものなので当然と言えば当然ですが)、
「今、この玄関に付いている鍵が、防犯上優れたものなので、同じ種類のもので交換しましょうか?
もちろん、前の鍵では開きません」
とお伝えしたところ、防犯性能が高いなら同じもので交換してくださいのことでしたので、その時と同じ種類の鍵穴へ交換致しました。
ちなみにですが・・・
鍵開けの場合は身分証明書の提示が必要です。
鍵を開けるからです。
そこに住んでる人以外が家に入ってしまうと大問題ですから。
(たとえ親類縁者でも、住所の違う人は本人の許可なく入れません)(警察・消防立会いの、人命救助のための緊急時は除く)
ですが、鍵交換の場合は身分証明書は必要ありません。
なぜなら、鍵が開いていて、中に人が居るからです。
家の中にいると言う事は、その人はそこに住んでいる(もしくはそこで働いていたり、その家の人の代理の方である)人と言う事だからです。
ですので、今回のケースの場合、以前ここにお住まいだった男性の方から(別れた妻が・・・)と聞いていたところで、今現在この家に住んでおられる、こちらの女性の方からの鍵交換を断る理由もなければ、以前この家で男性から依頼があったと言う事をお伝えする必要もないわけです。
分かっている方からすると、何を当たり前のことをと思われるかもしれませんが、ここでは補足として書きました。
私どもの仕事は、お客様のプライベートやプライバシーに関わる事が多いので、こちらから詳しく聞くことはありません。
ただし、お客様からお話をされた場合は別です。
誰かに心の中の事を話したい、吐露したいとお客様が思っておられるようならば、時間を取ってお話は聞くようにしています。
が、お客様がお話になられた事だけしか聞きません。
当然こちらから質問することもありません。
そして、聞いたことはその場だけのことにして、文字通り忘却します。
(そのため、他人の事が色々と気になって、いろいろと質問したくなってしまう性格の人は、この仕事には向いていません)
それなので今回なぜ、最初男性の方から(別れた妻が・・・)とご依頼を頂いた後、
女性の方から(別れた夫が・・・)とご依頼が入ったのかは分かりません。
(もちろん、気にもなりませんが・・・)
ところで、この仕事はこのように、色々な人から様々な人生模様を聞いて、そして忘却する事が多いからでしょうか。
私はいろんな方から、
「聞き上手ですねー」
と言われることがよくあります。
が、忘れ上手でもありますので、実は聞いたことはほとんど覚えていません。
また、仕事柄こちらからは何も聞かないからでしょうか、例えばかなり久しぶりに会った友人などと話す時に私は、
相手が今何の仕事をしているかとか、どういう生活をしているかをこっちから聞かない癖があるので、
「君、僕が今どんな仕事してるのだとか、近況だとか全然聞いてこないね」
と言われたりもします。
その時は、
(あぁそうか、普通は聞くのか。聞かんと興味がないように思われるのか)
などと思ったりします。
さて・・・
またどんどんと話が横道に逸れていって行きそうですので、今回の記事はこの辺りに致します。
それではまた、何か書いても大丈夫そうな出来事がありましたら、書こうと思います。
(書けないことも結構あるので、気長に更新をお待ちください。)