借金取りが夜逃げ人を捕まえ鍵開け・福岡市内某所

マンション鍵開け

 

あれは、冬の足音がすぐそばまで来ていた頃。

 

 

その日は有難い事に仕事が忙しく、鍵交換や補助錠の取り付けなど、福岡市内を車でバタバタと走り回っていました。

 

 

夕方頃、ようやく仕事の依頼も一段落し、事務所に戻って来ました。

 

 

 

あたりはすでに、暗くなり始めていました。

 

 

「そういえば、日が暮れるのもずいぶんと早くなったなぁー。」

 

 

と思っていた時に、一本の電話が。

 

 

「住んでるマンションの鍵をなくしてしまい、家に入れないので開けて欲しい」

 

 

と言うご依頼でした。

 

 

依頼主はその家に住んでいる人で、現住所が記載された身分証明書も、間違いなくお持ちであると言う事で、急いで現場に向かいました。

 

 

 

・愛想の良い、黒スーツの男たち

 

 

現場につくと、マンションのロビーには、黒いスーツを着た数人の男性が待っていました。

 

 

その中に一人だけ、くたびれた洋服の男性がいました。

 

 

・・・黒スーツの男性はみんなニコニコしていました。

 

 

「お待たせしました」

 

 

と声を掛けると、黒スーツの集団のうちの一人が

 

 

「いえいえ、突然依頼したのに、すぐに来てくださって、ありがとうございます」

 

 

と、丁寧におっしゃられました。

 

 

「さ、さっ、それでは家の方に参りましょう」

 

 

と、黒スーツの男性に促され、エレベーターに乗りました。

 

 

黒スーツの男性は、みなニコニコしていて腰が低く、愛想が良いのですが、その中でただ一人、くたびれた洋服の男性だけは、とんでもなく無愛想でした。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

目的の階に着きエレベーターのドアが開きました。

 

 

私たちはぞろぞろと、お部屋の方に移動しました。

 

 

「それではこれから鍵開けをしますが、その前に身分証明書の提示をお願い致します。」

 

 

私がそう言うと、無愛想極まりない、くたびれた洋服の男性が、投げつけるように免許証を渡して来ました。

 

 

(なんでそんなに愛想が悪いんだ)

 

 

と、正直内心思いましたが、顔に出さないようにするのは得意なので、渡された免許証を確認しました。

 

 

 

 

間違いなく、この部屋の住人でした。

 

 

 

 

・いざ鍵開け。しかし軽くトラブルが

 

 

 

こうしていざ鍵開け作業に入ったのですが、少しトラブルが・・・

 

 

何とその部屋の鍵は、セキュリティの高いものに交換されていて、壊さないと開錠出来ない代物でした。

 

 

実はその日現場作業が忙しく、前の現場で充電式ドリルの電池を使い切ってしまっていたのです。

 

 

事務所に戻ってすぐにご依頼を頂いたため、充電する間もなくこの現場にやって来たので、電池がないままで、充電式ドリルが使えないのです。

 

 

私どもは、充電式のドリルと、コンセント式の電動ドリルの二種類を常時車に積んでいるので、マンション内のどこかにコンセントがあれば、作業が出来るのですが・・・

 

 

そのことを黒スーツの方々にお伝えすると、

 

 

「あぁ、そういう事ですか。

 

 

それでは皆で、どこかに電源がないか手分けして探しましょう」

 

 

と言って、くたびれた洋服の男性のとなりに立っている黒いスーツの男性以外の、黒スーツの皆さんが、一斉に散り散りになって電源を探して下さいました。

 

 

が、そのマンションの廊下などの共用部を皆さんで散々探しましたが、どこにもコンセントがありませんでした。

 

 

 

 

私どもの車の中には100Vの電源があるため、少し時間をもらえればドリルを充電することが出来ます。

 

 

そこで、

 

 

「申し訳ありませんが、車の中で十五分ほどドリルを充電して来てもよろしいでしょうか。」

 

 

とお願いをしました。

 

 

すると、

 

 

「構いませんよー。

 

 

時間は大丈夫なので、ゆっくり充電して来て下さい」

 

 

と、ニコニコしながら言って下さいました。

 

 

 

・鍵を無事に開錠、しかし意外な結末が

 

 

こうして私はエレベーターで下に降り、車の中で充電を開始しました。

 

 

15分経ち、充電も完了したので、再びお部屋の前まで行きました。

 

 

「充電終わりましたか?

 

 

それでは御手数ですが、よろしくお願い致します。」

 

 

と言われ、作業を始めました。

 

 

ところで皆様は、ドリルさえあれば、鍵穴なんてすぐに壊れるとお思いではありませんか。

 

 

一口に鍵と言っても、様々なメーカーが様々な種類の鍵を出しています。

 

 

そしてその個々の鍵穴の構造をしっかりと理解し、その鍵穴の弱点を的確に打ち抜かないと、ものすごい時間が掛かってしまいます。

 

 

変なところに穴を開けると、かえって開かなくなるのです。

 

 

さらに、今の鍵は破壊に対する強度の高い物が多く、弱点の周りが、超硬な焼入鋼などでガードされているものがほとんどです。

 

 

 

 

 

少し話が横道に逸れましたが、紆余曲折ありつつも、こうして開錠をしました。

 

 

 

 

「あぁ、開きましたか、ご苦労様です。

 

 

私たちはちょっと中に入ってもよろしいでしょうか?」

 

 

 

と、黒スーツの男性の中の一人がおっしゃられましたので、

 

 

「どうぞどうぞ、大変お待たせをいたしました。

 

 

私はドリルなどを車に片付けて来ますので、また後ほど上がって参ります」

 

 

と、お伝えをし、道具を担いでエレベーターで降りて行きました。

 

 

 

そして、ドリルや道具を車の中に片付け、再びお部屋の方へ上がって行きました。

 

 

ドアが閉まっていたので、呼び鈴を鳴らしました。

 

 

 

ピンポーン・・・

 

 

・・・

 

 

・・・

 

 

誰も出てきません。

 

 

 

(あれ、聞こえないのかな)

 

 

と思い、再び呼び鈴を押してみました。

 

 

ピンポーン・・・

 

 

・・・

 

 

・・・

 

 

・・・

 

 

やっぱり出てこない。

 

 

 

(ん?音鳴ってるはずだけどな・・・)

 

 

 

ピンポーン・・・

 

 

・・・

 

 

 

ピンポーン・・・

 

 

・・・

 

 

・・・

 

 

何回押してもお出になられないので、ドアを開けてみました。

 

 

 

・・・

 

 

 

ガチャ・・・

 

 

 

すると

 

 

 

「おーぉ!?

 

 

貴様逃げきれると思ったんかぁ!!」

 

 

と叫び声が!!

 

 

 

(えーーーーぇ・・・)

 

 

 

「何とか言ってみろよ、貴様この!!」

 

 

罵声はひっきりなしに続いています。

 

 

 

仕方がないので

 

 

「すいませーん」

 

 

と、呼びかけるものの、罵声にかき消されます。

 

 

 

「すいませーん」

 

 

と呼びかけ続けますが、相手にはどうしても声が届きません。

 

 

「すいませーん」

 

 

「あぁ?貴様どうけじめをつけてくれるとや!!」

 

 

「すいませーん」

 

 

「黙っとてもわからんたい!!

 

 

何とか言わんや!!」

 

 

「すいませーん!!」

 

 

「貴様舐めとったらいかんぞ!!」

 

 

「すいませーん!!」

 

 

・・・

 

 

シーーーーン・・・

 

 

 

「あの、すいませーん、お支払いの方お願い致しますー。」

 

 

 

「あぁ!?」

 

 

 

シーーーン・・・

 

 

 

「おい、鍵屋さんに支払いして来い」

 

 

ドタドタドタ

 

 

すごい足音を立てながら、黒いスーツの一人がやって来ました。

 

 

先程まであんなにニコニコしていたのに、ものすごい形相で、額に汗を浮かべながらやって来ました。

 

 

「あぁ、お支払いまだでしたね。

 

 

代金です、どうぞ。

 

 

ご苦労様でした」

 

 

と言った目は、全く笑ってません。

 

 

先程までの愛想の良さはどこに吹き飛んだのでしょう。

 

 

 

私は全てを理解しました・・・

 

 

 

あのくたびれた洋服の男性が無愛想になってた理由が。

 

 

 

 

 

あぁ、そう言うことだったのか・・・

 

 

こんな人たちにだけは、関わることのないような生き方をしよう。

 

 

 

そう誓って、現場を後にしました。

 

 

 

最後までお読み頂き、誠にありがとうございます。

 

 

鍵屋をしていると、とてもたくさんの変わった現場に遭遇するのですが、これもまた、印象深い現場の一つでした。

 

 

 

あれからもう随分と月日が経っていて、私どもカギの救助隊福岡もお陰様でスタッフが増え、私自身は鍵開けなどの現場に行く機会も少なくなりました。

 

 

 

様々な現場で、様々な方とお話をしましたが、この現場での出来事は未だに風化することなく、頭の中に残っています。

 

 

あの頃の私はまだ若く、あのくたびれた洋服のお客様が、なぜあんな風に免許証を投げつけるように渡して来たのか分からず、一瞬ムッとしてしまいました。

 

 

今はそれ相応の年齢にもなりましたし、またたくさんの現場で場数を踏んでいますので、現場に着いた途端、もっと言えば、電話で受付をした瞬間に、状況が理解出来るようになりました。

 

 

鍵屋をしていて、お客様から有難うと言うお言葉を頂き、お役に立てた実感があった時も、もちろん嬉しいのですが、こう言った変わった現場で、普段味わうことのない経験が出来るのも、面白さの一つです。

 

 

これだから、鍵屋はやめれません。

 

 

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