家賃滞納者宅の鍵開け

先日、お取引を頂いてる賃貸管理もしている不動産屋さんから、福岡市内某所で鍵開けのご依頼を頂きました。

 

「今回は安否確認なのです。いや、安否確認と言っても、人が住んでる感じはあるのですが、家賃が数ヶ月滞納となったままでして。保証人となっているご家族が県外から来ているので、立会いのもとで鍵開けをお願いしたい」との事でした。

 

約束された時間より少し前に現場に着いて待っていると、先に不動産屋さんの担当者が現場に来られました。保証人のご家族はまだ来ていないようです。

 

まずは現場で状況の確認から

現場は表道りから何本か裏に入った住宅街の一角にある築30年ほどったった茶色いタイル張りの三階建てのビルでした。一階はテナントとその駐車場で、2階と3階が集合住宅となっています。戸数はそれぞれの階に5戸ほどと言った感じです。

 

 

 

ビルの画像、Googlemapより
画像はGoogleMapsより

担当者様(以下担当者)からまず始めに状況の説明がありました。

 

担当者「実はこの部屋の入居者の方なのですが、家賃が数ヶ月支払われていません。人が住んでいる気配はあるので亡くなっているとかそう言う感じではないと思います。しかしガス・電気のみならず、水道まで止められているようで、どうやって生活しているのか不思議です。目の前の公園から水を汲んで来ているのでしょうか」

 

(※目の前の公園には水飲み場はあるようですが、トイレはありません。しかしながら徒歩5分のところに、24時間のスーパーはあります。ただそのスーパーのトイレは21時以降は使えないのですが・・・)

 

そんな話をしているところへ、タクシーでご家族が来られました。降りてきたのは60歳後半くらいの中肉の男性でした。話す方言から察すると、桃ときびだんごで有名な県あたりの方でしょうか。

 

担当者「お父様ですね?実は息子さんからここ○ヶ月お家賃の振込がありません。ビルのオーナー様も大変お困りになられています。息子さんは携帯も止められているようで、連絡も付きません。私どもといたしましては、これ以上滞納が続く状況を見過ごすことが出来ません。そこで申し訳ないのですが、保証人であるお父様に連絡をした次第です。」

 

すると父親(以下父)が弱々しい声で

父「それで息子は今どこに?」と言いました。

 

担当者「それはわかりません。ここに住んでいる感じはあるのですが、いつ来てもおられません。連絡もつかず困っております。ガス・電気・さらには水道まで止められているようです。今ここに鍵屋さんが来られてます。私どもも中を確認する必要がございますので、今からお父様立会いの下で鍵開けを開始します」

 

そして、担当者様、保証人となっている父親、私の三人で玄関のドアの前まで移動しました。電気が止まっているため、インターホンが使えないので、担当者様がドアをノックしました。

 

ドンドンドン・・・

「○○さん、お父様が来られてますよ」

返答はない・・・

 

ドンドンドン・・・

「○○さん、おられないのですかー?」

・・・・

 

ドンドンドン・・・

「○○さーん、最終確認です。これから鍵を開けますよー」

・・・・

 

ドンドンドン・・・

「よろしいですかー?鍵を開けますね」

・・・・

・・・・・

・・・・・・

 

担当者「反応がないですね。やむを得ません、お父さん、これから私たちは鍵を開けます。鍵屋さんお願いいたします」

私は「はい」と答え、鍵穴をピッキングし始めました。

突然出て来たガリガリの男性

ピッキングをしていると、突然ドアが中から開けられました。ドアにはチェーンがかかっていて、少ししか開いていません。その少し開いたドアの隙間から身長180センチくらいの四十代前半の、ガリガリに痩せた無精ひげの男性が覗いています。

 

ガリガリの男性(以下息子)は力なく

息子「・・・・すみません・・・」と言いました。それを聞いてお父さんは

 

 

父「すみませんじゃないじゃろがぁー」と情けない声を張り上げて言いました。

父「なんやお前、家賃を滞納して、えろう迷惑をかけてるそうじゃないか」

息子「すみません・・・」

父「すみませんじゃなくて、まずはこのドアを開けて中に入らせんかぁー」

しかし息子さんは「すみません」と言って、ドアを開けようとする父親を阻止した。

父「すみませんじゃなくて、中に入らせろ」

息子「すみません」

父「すみませんはいいから、ドアを開けろ」

息子「すみません。頑張りますから帰って下さい」

父「頑張りますからって、家賃を滞納して迷惑をかけとるんじゃろがぁー。とりあえず中に入らせんかぁー」

息子「すみません、頑張ります」

 

一向に話が進まず担当者様も呆れる

「ドアを開けて中に入らせろ」「すみません、帰って下さい」の押し問答で話が一向に進まず、呆れた担当者様がついに口を開きました。

 

担当者「○○さん、頑張りますは良いのですが、もうすでに○ヶ月も家賃が滞納となっているのですよ。どうされるおつもりですか?今日お支払いが出来ないのなら、申し訳ないのですがオーナー様も大変困っておられますし退去してしていただかねばなりません」

 

息子さんは黙ってしまいました。

父「お前どうするつもりなんじゃ・・・。不動産屋さんも困っておるじゃろが」

息子「すみません、頑張ります」

父「わしはなぁー、お前にひとり暮らしは無理じゃと思っとるんじゃ。そやからわしはお前に家に帰って来いと言いよるんじゃ」

息子「すみません、もう少し頑張ります」

相変わらずドアを開けず、隙間から頑張りますを連発する息子さん。

 

ついに父親が根負けをしてしまいました。

父親が全て支払う

父「わしはなぁ、お前に帰ってこいと言いよるんじゃ。頑張りますと言っても家賃払えんのじゃろ?それに聞くところによると、電気もガスも水道もさらには携帯電話も・・・みんな料金を払っとらんそうやないか。頑張りますって、どうするんじゃ」

息子「頑張ります。帰って下さい」

担当者「あのね○○さん、頑張りますは分かりました。帰って下さいと言ったところで、滞納されてるお家賃はどうされるのですか?」

息子「すみません、頑張ります」

担当者「頑張りますと言うのはわかりました。お支払いするつもりがないのなら、退去して下さい」

父「どうするんじゃぁー。もう払えないのならうちに帰って来んか」

息子「頑張ってもうちょっと福岡で暮らします」

父「帰ってこんと言うのじゃな?」

息子「はい、もうちょっと頑張ります」

父「わかった、仕方がない。不動産屋さん、どうじゃろか、わしが滞納しているお金、今から全部払うから、息子をまだここに住まわせてもらえんじゃろか?」と根負けして言いました。

 

担当者様は父親に「分かりました。今すぐ全部お支払いいただけるなら、私からオーナー様に事情を説明しましょう。ただし、次滞納があったときは退去していただきますから」と言いました。

そして父親は息子さんに

「今回だけやぞ。ガス・電気・水道がなかったら不便じゃろうて。とりあえずわしが払ってやるから。次払えんかったら帰って来るんやぞ」と言いました。

お支払いがあるとの事で一旦帰ることに

お父様は、タクシーを呼び、銀行へと向かわれました。

 

担当者様は私に「鍵開けありがとうございました。しかし高橋さんどう思います?私はああやって甘やかしたら本人の為にならないと思うんですよ。まぁ、これまで滞納していたお家賃をお支払い頂けると言う事で、オーナー様もほっとするでしょうし、一旦は引き下がりますが・・・。私はね、あの人また家賃滞納すると思うんですよ。仕事もしていないようですし」とおっしゃられましたが、私も全く同感です。

他の家族なので、いろいろと言うつもりはありませんが、子供に思いやりを持って接するのと、甘やかすのは違うと思うんですよ。

 

「もしまた家賃滞納されて、連絡が取れずどうしようもなくなったら、その時はまたお願いしますね」と担当者様はおっしゃられ、車に乗って会社にお戻りになられました。私も鍵開けの工具などを片付けて帰りました。

 

一ヶ月後、やはり鍵開けの依頼が・・・

 

それから一ヶ月後、あのご担当者様から

「福岡市内で鍵開けをお願いしたいのですが・・・高橋さん、例の現場覚えてます?」とお電話を頂きました。

「もちろん覚えていますとも。これからすぐに参ります」と言って現場に急行しました。

 

現場に行くとご担当者様がおられました。

「高橋さん、やっぱりあのあとすぐに家賃を滞納されました。残念ながら思った通りでしたね。立場上、今度は私も引き下がるわけにはいきません」とおっしゃられました。

 

そこに先月お会いしたお父様がタクシーで来られました。

担当者「お父さん、今度は私も立場上引き下がれないのです。これから鍵を開けますがよろしいか?」

父「はい、ご迷惑をおかけします」

前回と同じくドアをノックをし、中に向かって呼びかけましたが反応がなかったので、担当者様が「それでは鍵屋さん、お願いします」

とおっしゃられ、私は解錠作業を開始しました。

 

鍵を開けると居なかった

ゴミ屋敷となったビルの一室

ピッキングをしている途中、前回のようにドアが中から開くことはありませんでした。ピンが全て揃い鍵が開きました。担当者様がドアを開け、「うわっ、ゴミ屋敷」とおっやられました。

そして「○○さん、入りますよ」と言って、お父様と一緒に中に入りましたが、中には誰もいないようでした。

 

担当者様は「よくこんな足の踏み場もないところで生活していましたね。お父さん、私は書類を作る必要がありますので、これから会社に戻ります。お父さんは息子さんが帰って来るまでここで待機していて下さい。私がここに戻ってくる前に息子さんがお戻りになられたら、すぐに私の方に連絡をして下さい」と言って、外に出てきました。

そして「高橋さん、今回も有難うございました。残念ながらやはり思った通りになっちゃいましたね」とおっしゃられ、車に乗り込み、会社に戻られました。

 

その後

その後どうなったかは詳しくはわかりませんが、退去となったことだけは確かなようです。

 

実は似たような現場にたまに当たることがあります。今回のこのビルの場合、中にいる人がおとなしい人でしたが、中にはそうではない人もおられます。中に立てこもっているところを鍵を開けられそうになり逆上し、工具を壊わしたり、スタッフが行った現場では、スタッフが包丁を振り回され危ない目に遭ったなんて言う事もありました。

 

工具を壊されると、そのあとから仕事が出来ないわけですし、包丁など振り回されると、スタッフの命の危険もありますので、こういう事があると、私は最高責任者として、立会人の親に厳格な対応をします。しかし、こういったところの親御さんは強く言ったところで「へへへ、息子のしたことなんで、すみませんね。お金払うから許してやってください」と、軽くしか考えていない事がほとんどです。ほとんどと言うより、今までの現場では100%そんな感じでした。

(いずれの場合も、子供は逮捕されています。特に包丁を振り回した方は、近所の方の通報で、暴力団対応の刑事さんが急いで来て、緊急逮捕されたようです)

 

ベストセラーとなった「7つの週間」の中で、著者のスティーブン・R・コヴィー博士はこう書いておられます。

依存心は無気力と恨みを生む温床となる

 

他の家庭の事なので、色々とは言えませんが、親の甘さから躾が不十分でなく、子供が不動産業者さんや、我々鍵屋に迷惑を掛けると言うのはどうなんでしょうか。こういった事例は、昔に比べて年々増えてきている気がします。

 

 

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