この話は“鍵にまつわる面白話”に入れるべきかどうか、そもそも書いて良いものかどうかと考えましたが、お客様からこのコラムを楽しみにしていますとの声を頂く事が多々ありますので書こうと思います。
が、面白話に入れるのはあまりなので、“鍵に関する笑えない話”の欄に入れさせていただきました。
今回は表題のとおり、玄関の鍵を開けて家に入ったらもぬけの殻だった方のもとへ、鍵交換に行った時の話です。
ある小雨がちらつく日の昼下がり、40代くらいの男性のお客様から緊急で鍵を交換して欲しいとのお電話がありました。
「緊急で申し訳ないのですが、今日中に鍵交換お願いできますか」
「はい、本日は予約に空きがございますので、大丈夫ですよ」
と会話をし、現地に行きました。
現場は、福岡市内某所にある、新しい目の綺麗で大きなマンションでした。
約束の時間の少し前に着くと、お客様はエントランスで、すでにお待ちになられていました。
「急に頼んだのに来てくれてありがとうございます」
とお客様はおっしゃられました。
表情は穏やかなのですが、目の奥に何か怒りのようなものを抱えている気がしました。
どうしたんだろう・・・
と、少し疑問を持ちました。
「それでは一緒に上にあがりましょうか」
とお客様がおっしゃられたので、共にエレベーターに乗り込み、お客様のお家に。
お部屋の前につくと、お客様がドアの鍵をお開けになられました。
さて、鍵交換の作業についてのお話を、と思ったのですが、その前にお客様から
「鍵屋さん、一度中を見て下さいよ」
と言われたので、
「そうですか、それでは失礼いたします」
と言って、お家の中にあがらせていただきました。
上層階だったこともあり、リビングに行くと、大きな窓から、福岡市内の景色が一望出来ました。
(あぁ、素敵なところだな)
と思った記憶があります。
促されるまま、お家の中のお部屋を全部見て回りました。
お引越し前なのか、お家の中には家具の一つもなく、がらんとした状態でした。
お引越し前に鍵の取替をされる方は結構多くいらっしゃいます。
・前の入居者が鍵をもっているから
・前の鍵は内装工事屋さんなど、いろんな方の手に渡っているので、本入居する前に、とりあえず仮で鍵を取り替えておきたい。
など、理由はさまざまです。
そのため、室内に何もない、引っ越し前の状態で鍵交換する事は何も不思議な事もなく、特に疑問も持ちませんでした。
室内を全て見させていただき、玄関に戻って来ました。
するとお客様が
「どうでした?」
とおっしゃられたので、
「素敵なお家ですね!窓から市内の景色が一望できます」
と答えました。
「ありがとうございます。ところで室内は何も物がなかったでしょう?」
とお客様。
「ええ。確かに何もありませんでしたね」
と私。
「実はですね・・・」
とお客様。
「仕事が終わりさっき家に帰って来たんです。そしたら家のものが何一つなくなっていたんです」
とおっしゃられたので、予想外のお言葉に返答に窮し
「えっ・・・。あ、そうなんですか・・・」
と、戸惑いながら答えました。
「おそらく、別れた女房が全部持って言ったのだと思います。鍵屋さんどう思います??ちょっとありえないですよね。私ね、裁判をしようと思ってるんですよ!」
とおっしゃられたので、
「そうなんですか・・・」
と答えました。
“お客様の不安を解消し、安心と笑顔をお届けします”と言う企業理念を掲げている私ども鍵の救助隊ですから、お客様の心の負担の軽減につながるならと、現場でお客様の話をよく話を聞くようにしています。
話を聞くことしか出来ませんが、少しでもお客様の心が軽くなって頂けたらなと思っています。
たくさんお話を聞かせていただきました。
お客様から「あなたが来てくれてよかった」と言って頂きました。
お客様の心が軽くなったかどうかそれは私にはわかりません。
が、少しはお役に立てたのではないかと思います。
こうして、この現場も無事に完了する事が出来ました。
さて、今年よりわたしたち鍵の救助隊は、予約優先性とさせていただいております。
それはやはり、一件一件丁寧に仕事をしたいからです。
そして、時にはこのように、お客様のお話をお聴きする時間を確保したい時があるからです。
もちろん目先の売り上げを考えるなら、たくさんの量の仕事をこなした方が良いですが、もしも、かつかつに仕事を詰めて入れてしまうと、一件一件の仕事が雑になったり、また“お客様に安心と笑顔をお届けする”と言う理念を遂行出来ないと思ったからです。
そのため、予約優先性とさせていただきました。
さて、鍵屋と言う仕事は、本当にいろんな方とお会いするお仕事です。
同じ鍵交換のご依頼でも、すべて状況が違います。
私は、お客様のお役にたてるこの鍵屋と言うお仕事が大好きです。
本日も一日、お客様に安心と笑顔をお届けできるよう頑張ります!