あれはもう、ずいぶん前の話です。
とあるお宅に鍵交換に行った時、子供の素直さと言って良いのか分かりませんが、そのお家の子供さんから質問を受けて、何と答えて良いのかわからなくて戸惑ってしまった事があります。
大人の事情がわからないのでしょうが、純粋に疑問をぶつけてくる子供は恐ろしい。
暑かった夏も終わり、秋の気配が近づいて来たある日の昼下がり、一本の電話が鳴りました。
三十代くらいの女性から、
「お家の防犯性能を上げたいと考えています。
とにかく、ピッキングが出来ない鍵へ交換して欲しい」
とお電話を頂きました。
「今日、今すぐにでも交換して欲しい」
との事でしたので、急いでお客様がお住まいの福岡市中央区内にあるマンションへ向かいました。
お客様のご要望としては、とにかくピッキングで簡単に開かない鍵に替えて、防犯性能を上げたいとのことでしたので、防犯性能の高いシリンダーのサンプルをいくつか持ってお伺いしました。
お客様には、小さなお子様がおられると言う事でしたので、いくつかの種類のシリンダーの中から、鍵の抜き挿しが軽く、また鍵が抜ける位置でカチッと手にクリック感があり、お子様でも操作しやすいチェンジングロックが選ばれました。
「これなら、うちの子供でも使いやすいわ」
と言って、喜んで下さいました。
このチェンジングロックはとても良い製品だったのですが、残念ながらメーカーの事情により生産が中止となってしまいました。
惜しまれつつも市場から姿を消してしまい、現在では手に入らない状態となっています。
カギの救助隊福岡では、生産中止が決まったあと、すぐさま大量に製品を買い付け、たくさんの在庫を確保していたのですが、現在ではほぼ全種類完売状態となっています。
(2015年8月24日の執筆時点では、美和ロックBH用のシリンダーが一つ残っているのみです。
お問い合わせの多い、美和ロックLA用・PMK用などは、全て完売となっております)
さて、話は少し横道にそれてしまいましたが、こちらのお客様のもとへお伺いした頃は、まだチェンジングロックが生産中止となる前でしたので、チェンジングロックへ交換となったわけです。
鍵交換用シリンダーのサンプルをいくつかお持ちして、それぞれのシリンダー特徴を説明させて頂いた後、チェンジングロックに交換することが決まりました。
「それではこれから、鍵交換の作業に入ります」
とお伝えし、作業に取り掛かりました。
そして、お客様は部屋の中へ入って行かれました。
錠前のネジを外したりしていると、家の中から、その家のお子様が出て来られました。
ちょうど、小学校に入る前くらいの男の子でした。
「何しようとー?」
と、その子は言いました。
「今ねー、鍵を替えようとよ」
と、私は言いました。
「ふーん、何で鍵替えとー?」
と再び男の子。
「泥棒が入らないように、鍵を良い物に交換しようとよー」
と私は答えました。
すると、その子は言いました。
「ふーん、本当はパパが入らんようにしよっちゃろー?」
パパが入らないようにってどういう事?
と思ったのと、
泥棒ではなく、パパと言う思わぬワードが出て来た事に吹き出してしまいました。
「え?パパかよー。
パパが入らんようにかどうかはわからないよー」
と言うと、
「だって、ママが話してるの聞いたっちゃもん。
パパが勝手に入って来るから、鍵交換せなねって言ってるのを。
ねぇ、本当はパパが入らないようにしよっちゃろー?」
(あぁ、なるほど、そう言う大人の事情での鍵交換か)
と理解したものの、何と答えて良いかわからず、戸惑いました。
何と返事して良いのか分からず、答えあぐねていると
「ねぇねぇ、本当はパパが入らないようにしよっちゃろ?」
と、何度も聞いて来ます。
「うーん、パパかどうかわからないなぁー
とりあえず、ここは工具がいっぱいあるから、危ないからお部屋に入っときー」
と、苦し紛れに答えたのですが、
「ぜんぜん危なくないやん。
だって、ママが話してるの聞いたんだもん。
ねぇ、パパが入らないように鍵替えるっちゃろ?」
(うーむ、困ったなぁ)
そうこうしているうちに、鍵交換の作業も終わり、
「終わったよー。お母さん呼んできてくれる?」
と私は言いました。
これで質問攻めからは開放されると内心思いながら。
男の子は
「ママー、鍵交換終わったよー」
と言って、家の中に走って行きました。
そして、お母さんを連れて来ました。
「お待たせしました」
と言って、私はお客様に新しい鍵を渡しました。
「ねぇママー。パパが入ってこないように鍵替えたっちゃろー?」
と男の子が言うと、間髪いれずお客様は
「うん、そうだよー」
とお答えになられました。
そこに、何で知ってるのとか、どう答えようとかと言った迷いは全く感じられませんでした。
鍵屋と言う仕事柄・・・
と言うより、私どもカギの救助隊福岡は、鍵交換に力を入れて営業しているので、毎日たくさんの鍵交換をしたいと言うお客様のもとへ行きます。
その事情は様々です。
その中には、今回のように、別れた配偶者が勝手に入って来るといった案件もあります。
そう言った場合、お客様は悩みを抱えておられる事が多いです。
誰かに話したいと思っておられるお客様の場合は、なるべくお話は聞くようにしています。
何も出来ませんが、お客様の心が少しでも軽くなるならと、せめてお話くらいは時間を取ってお聞きしています。
が、今回お話したように、子供が相手だと、何と言って良いのか戸惑いますね。
この現場は、返答に悩んだ現場だったので、印象が強く、今でも鮮明に覚えています。