今回は、鍵が壊れてドアが開かないので開けてほしいと言う依頼の中で、最も時間のかかった現場を紹介します。
ラッチボルト(ラッチとも言う)か、デッドボルト(かんぬきとも言う)が壊れ、鍵を回しても、ドアノブをひねってもドアが開かないと言う症状でした。
ラッチボルトとは、ドアが風などで開かないように、ドアを一時的に係留するための部品です。
デッドボルトとは、施錠によりドアが開かないようにする部品です。
この、鍵を回しても、ドアノブをひねっても開かない症状のドアを開けるまでにかかった時間はなんと八時間!
その八時間の間ずっとドリルを回したりなどの力作業が続き、本気で泣きが入った現場でした。
何時間頑張っても、一向に飽く気配がないので、途中
(どれだけ頑張っても、全然開く気配がない。代金は要らないので帰りたい)
と、心の底から何度も思った現場です。
作業開始から八時間経過してようやく開いた時は、あまりの疲れで倒れそうになりました。
この時破壊開錠したのは、面付錠と呼ばれるタイプのものでした。
壊れていたのがケースロックタイプであったなら、比較的簡単に破壊開錠出来ていたのですが、面付錠タイプだったために、八時間もの時間を要しました。
と言うのは、ケースロックならば、デッドボルトやラッチボルトが外から見えるし、工具で触れるのですが、面付錠は、錠ケースが室内にあるため、デッドボルトやラッチボルトを見ることができません。
また、同様にデッドボルトやラッチボルトを工具で触ることが出来ないのです。
そのために随分と大変な作業となってしまいました。
さて、ドア用の錠前には、大きく分けてケースロックと面付錠に分かれます。
ここで、ケースロックと面付錠の違いを説明致します。
ケースロックとは彫り込み錠とも呼ばれるように、ドアの中に錠ケースが入っているものです。
対して面付錠とは、ドアの室内側の面に錠ケースが取り付けられています。
イメージしやすいように、ケースロックと面付錠の写真を以下に載せます。
まずは錠ケースがドアの中に埋め込まれているケースロックから。
続いては面付錠です。
錠ケースがドアにくっついています。
様々な形がありますが、次の三つの形のものが、最もよく使われているタイプです。
もしかしたら、見たことがあるとおっしゃられる方もおられるかもしれません。
このように、ケースロックがドアの中に埋め込まれて(彫り込まれて)いるのに対して、面付錠は、ドアの室内側の面に取り付けられています。
ドアの中に錠ケースが埋め込まれているケースロックは、見た目がスマートなことに対し、面付錠は室内側に錠ケース(中には錠箱と呼ぶ人もいます)があるため、見た目はスマートではありません。
しかし、面付錠にはとても優れた利点があります。
それは、デッドボルト(及びラッチボルト)が戸当り(ドアが当たる枠の部分)の奥にあることです。
上の写真は、ケースロックと面付錠のデッドボルトが入る受け金具の位置の比較画像です。
(面付錠の場合、建物によっては受け金具がなく、ドア枠に直接四角い穴が開いていて、そこにデッドボルトが入る場合もあります防犯性能は同じです)
このように、面付錠の方は、戸当たりの向こう側(室内側)にデッドボルトが入る構造となっています。
デッドボルトが室内側にあると言うことは、デッドボルトが外から見えないと言うことです。
デッドボルトが外から見えないと言うのは、鍵が開いてるかどうか外から知られることはないということ大変な利点があるのですが、面付錠の場合、外から見えないと言うだけではありません。
デッドボルトが戸当たりの内側にあるため、たとえバールなどの破壊工具をドアの隙間に差し込まれたとしても、破壊工具が届かないので、デッドボルトを攻撃されることがないと言う、防犯上大変優れた利点があります。
(下の写真参照)
写真だと少しわかりづらいかもしれないので、ケースロックと面付錠のデッドボルトの入る位置をそれぞれ図で示したいと思います。
まずはケースロックから。
このように、ケースロックでは、バールなどの破壊工具が届く位置にデッドボルトがあります。
続いては、面付錠のデッドボルトが入る位置を示した図です。
このように、面付錠の場合、デッドボルトが破壊工具が届かない位置にあるので、防犯上大変優れていると言えます。
ケースロックも、デッドボルトが外から見えないようにするため、ガードプレートがついていたり、ドアが煙返しという形をしているものもあります。
ただ、カードプレートや煙返しの内側にはデッドボルトがあるため、デッドボルトがむき出しのものよりは随分防犯性能は良いですが、デッドボルトへの攻撃は、完全には防げません。
さて、ここまで長々とケースロックと面付錠の違い、そして面付錠の、デッドボルトが戸当たりの内側にある事の利点についてお伝えしました。
それはなぜかと言うと、面付錠のデッドボルト(およびラッチボルト)が戸当たりの内側にある事が分からないと、面付錠の破壊開錠に八時間も要した理由が分からないからです。
デッドボルトやラッチボルトが壊れた時、それがケースロックならば、外からデッドボルトやラッチボルトを触れるのでまだ楽です。
玄関用の場合、デッドボルトは簡単に切断できないものが多いですが、それでも時間を掛ければ切断できるし、直接触れる分、様々な方法を取ることが出来ます。
(※ただし外開きドアの場合。内開きドアの場合はデッドボルトやラッチボルトが見えない。詳しくはそのうち書こうと思います)
しかし、面付錠でデッドボルトやラッチボルトが壊れた時は、デッドボルトやラッチボルトが届かない位置にあるため、大変苦労するのです。
触ることが出来ない壊れた部品を除去するのは大変なのです。
そのために、八時間も要してしまったと言うわけです。
ここからは、触ることが出来ない面付錠の壊れたデッドボルトやラッチボルトを除去した時の方法を少しお伝えします。
この時、鍵を回しても、ノブを回してもどドアが開けられなくなっていた面付錠は、以下の写真と同型のタイプでした。
何度もお伝えしている通り、面付錠は外からデッドボルトやラッチボルトが見えないため、壊れているのがデッドボルトなのか、ラッチボルトなのか、分からない状態でした。
が、とにかくそのいずれかが壊れていて、ドアが開かないのは事実なので、デッドボルトとラッチボルトの両方を除去する必要がありました。
ドア全体を壊してしまえば、デッドボルトやラッチボルトが見えようが見えまいが、楽なのですが、取り壊す家でない限り、そんなことは出来ません。
そこで、現状復旧(元の状態まで復旧する事)が出来る場所に穴をあけてそこから、デッドボルトとラッチボルトを除去します。
このタイプの面付錠(美和ロックPMK)は、長方形の金属の長座がありますので、この部分だけが現状復旧出来る箇所です。
逆に言うと、この長座以外のところに穴をあけてしまうと、穴が隠せないので、ドア全体を交換しなければならなくなります。
そこで、この長座の部分に丸い穴をあけてそこから壊れている部品を除去していきます。
(ピンク色の丸の部分)
緑の丸で示した部分は、デッドボルトとラッチボルトが入っている部分。
ピンク色の丸で示したように、長座に穴をあけて、そこから緑の丸のあたりに工具を差し込み、部品をどんどん摘出していきます。
この面付錠のデッドボルトとラッチボルトの位置は、以下の写真で示します。
余談ですが、長座にネジが付いていますが、内側から全て分解しない限り、外からこのネジだけを外しても、長座は取れません。
つまり、もし仮に、いたずらで外からこのネジを外されたとしても、長座は取れないので、これと同じ美和ロックのPMKが玄関に使われているお家にお住まいの方はご安心ください。
この時に壊れていた部品を、結論から申し上げますと、ラッチボルトが壊れていたのでした。
外してからわかったのですが、ラッチボルトが何らかの原因で、受け金具(デッドボルトやラッチボルトが入るために、ドア枠に開けられた穴)の中で変形して受け金具に引っかかって出て来ない状態になっていました。
そのため、ピンク色の丸で示した穴から工具を入れてどれだけ頑張ってラッチボルトを引っかけても、引っかかっているため摘出が出来ない状態でした。
目で見えていれば、変形して引っかかっていることが分かりますが、見えないので、なぜ摘出が出来ないのかさっぱりわからない状態で作業を続けていました。
実は、お客様から
「鍵が壊れて中に入れないので開けてほしい。」
とご連絡を頂いて、作業を始めたのは夕方。
現場は団地の一室でした。
夕方なので、ドリルを回しても全然大丈夫だったのですが、全然部品が摘出できず、現状復旧が出来る箇所にいろいろと穴をあけて色んな所から、色んな工具を差し込んで摘出を試みているうちに、22時を過ぎてしまいました。
夜のシーンと静まり返った団地に、時折ドリルの音や、鉄の扉が工具によりカンカンとなる音が響き渡っていました。
お客様自身もお疲れもあり、また音による近所迷惑もあり、その日は一旦作業は中断し、お客様はホテルで宿泊をすることに。
そして翌日の朝から作業を再開する事となりました。
ここまで4時間以上かかっていますが一向に開く気配がありません。
代金はいらないので帰らせてくださいと言いたくなりました。
朝が来て、作業を再開しました。
前日夕方から夜まで、ひたすらドリルを回したりだったので、身体中が筋肉痛で、疲労が抜けていませんでした。
その疲れ切った身体で、作業を再開しました。
結局前日と変わらず、全くドアが開く気配がありません。
そのままお昼が過ぎ、この時は夏の暑い時期だったのですが、水分も摂れないでいたため、のどはカラカラ、口の中は水分がなくなりパサパサに、頭はふらふらとしてました。
そのまま、工具を使って部品を引っかけて力いっぱい引っ張り続けて摘出を試みていると、正午を随分と過ぎた頃、突然スポーンと引っかかっていたラッチボルトが抜けて、ドアが開きました。
ここまで八時間にも及ぶ格闘となりました。
ドアが開いた瞬間、あまりの疲れとあまりの脱水症状に、本当に倒れてしまいそうでした。
抜けたラッチボルトを見ると変形していたので、
(これが受け金具の中で変形して引っかかっていたのか。そのことが分かっていたらもっと違う方法をとれたりと、苦労しなかったのになぁ)
と思いました。
デッドボルトやラッチボルトが見えないというのは、大変な苦労です。
もし、玄関に面付錠が使われているお家にお住まいならば、ドアノブがガタガタしたりしていると感じたら、早めに交換をお勧めします。
今回紹介した事例のように、ドアが閉まっている状態で壊れてしまったなら、大変なことになりますよ。
そして僕は、もしこの先、面付錠が壊れたという依頼は、出来る限り避けたいなと思います。
それでは、今回の話はこの辺りで。