火災があった現場へ鍵交換へ行った時の話

あれはもう数年前の事ですが、火災があった現場へ鍵交換に行った事がありました。

 

こういった時の鍵屋の仕事と言うのは、やはり辛いと言いますか悲しいと言いますか・・・

複雑な気持ちになった事は確かです。

何度か鍵交換をご依頼下さったお客様

夏のある良く晴れた日の昼下がり、店の電話が鳴りました。

 

掛けてきて下さったお相手は、福岡県下で飲食店を複数経営されているお客様で、新しく店舗を増やした時の鍵交換に、また店の鍵の調子が悪くなった時の修理になど、いつもカギの救助隊福岡をご利用して下さるお客様でした。

 

「高橋さんですか?いつも鍵交換をお願いしている○○です。

急で大変申し訳ないのですが、今日また鍵交換をお願いしたいのですが・・・

今日夕方くらいまでなら何時でも、あなたの都合のよい時間に来てくれたらいいけん。

あと、ドアも少し崩れているので、修理もお願いしたいのだけど・・・」

と言う内容でした。

 

「いつもありがとうございます。ちょうど今、現場から戻ってきたところなので、これから向かいますね」

と言って、車に乗って向かいました。

現場に着くと、異様な光景が

現場近くのコインパーキングに車を停め、工具箱を持って、お客様のお店へ向かいました。

遠くからは気付かなかったのですが、近くに来ると、異様な光景が目に入り

 

「え・・・、何これ・・・」

と思わず目を疑いました。

 

鉄製のシャッターは破られ、そしてドアはこじ開けられた形跡があり、悲惨な状況に。

 

その破られたシャッターをくぐりぬけ、こじ開けられたドアを通り中に入ると、何かが酷く焦げたにおいが、鼻を突きました。

はっと、厨房を見ると壁一面が黒く焦げていて、全てを理解しました。

店の奥から憔悴したお客様が

どうやらこのお店で火災があったようでした。

破られたシャッターや、こじ開けられたドアは、消防隊が消火のためにやむなく開けたものなんでしょう。

もうちょっと、後々復旧出来るような開け方はなかったのだろうかと一瞬思ったりしましたが、一刻を争う火災の現場では、そんな悠長なことを言ってる余裕もなく、やむなくこういう開け方になったのでしょう。

 

なにせ、入るのに手間取ると火の勢いは増し、燃える範囲が広がり、場合によっては隣家に移る可能性もあるので、きれいにドアを開けているうちに火災の範囲が広がる事による被害を考えると、シャッターやドアをぶち破った方が被害が断然少なくて済むと言う、消防隊員の方の一瞬の判断だったのでしょう。

 

それが幸いしてと言ってよいのかどうかはわかりませんが、大火にならず、小火(ボヤ)で済んだようです。

 

中に入ると、数人のお店の方々が、地面に散らばった食器類を片付けておられました。

 

その中に、いつもご依頼のお電話をして下さるお客様がおられ、僕が来た事に気付き、憔悴した感じで奥から出てこられました。

掛ける言葉も見当たらず、もくもくと修繕作業

こう言う時は、どんな言葉を掛ければいい?

僕は掛ける言葉も見当たらず、だまって頭を下げました。

 

お客様は静かにうなずいた後、

「これね・・・

シャッターはご覧のとおり、修理が不可能だから、取替えをシャッター屋さんに頼んだのですが、このドアなんだけどね・・・

なんとかなりますか?」

とおっしゃられました。

 

こんな時、へたな言葉をかけるよりも、自分の持っている知識や、職人としての技術で、お客様に少しでも安心をお届けした方が良いと僕は思いました。

これから色んなところの修繕でたくさんのお金が掛かってしまうだろうから、使えるところは修理して使って、なるべくコストを抑えて復旧してあげたいとも思いました。

 

「ええ、大丈夫です。

鍵穴は残念ながら壊れてしまっていますので、交換しなければなりません。

しかしながら、錠は取付座がグニャっとなっているだけですので、ここは修理すればまだ使えます。

ドアも、枠が変形していますが、ドアそのものは幸い無事ですので、この部分も修繕でなんとか復旧出来ます」

とお伝えをし、もくもくと作業を開始しました。

少しはお客様の気も晴れたでしょうか

それから変形した金属をハンマーをつかってコンコントントンと叩いて修正をしたり、強度が弱ってしまった錠の取り付け部分は補強をしたりし、出来る限り元通りに仕上げて行きました。

 

 

こうしてなんとか無事に復旧が出来ました。

 

大変な状況の中に居るお客様の気持ちが少しでも楽になったかどうか、それは自分には分かりえません。

しかし、お客様の気が少しでも晴れるように、一生懸命作業をすることはできます。

言葉を使って安心感を感じて頂くよりも、頂いたご依頼に真剣に取り組み、お客様が思っている以上の仕上がりにすることが、職人としての自分の務めだと思っています。

無事にお店も再開

それからしばらくそのお店は、新しくなったシャッターが閉まったままの状態が続いていましたが、一週間ほどたった時、ちょうど別の現場で付近を通った時に見てみると、無事に再開していました。

 

以前と同じように客足が戻って来ていたそのお店を見て、なんだか嬉しくなりました。

 

このように、いろいろな現場に行くこの鍵屋と言う商売。

楽しい時もあり、またお客様の抱えている状況に、感情移入をし、深く考えさせられる事もあります。

 

しかしこの鍵屋と言う商売は、自分の持っている技術で、お客様のお役に立てる仕事なので、本当にやりがいのある仕事です。

それでは今回はこの辺りで・・・

 

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