さて、今回は室内のガラス付きの引き戸(障子・引き違い戸)へ、鍵を新規に取り付けた時の施工例を載せたいと思います。
施工させて頂いたお客様は、ガラス付きの障子なので、鍵を新規で取り付けることは出来ないだろうと諦めておられたとの事で、
「私たちのように困っている人が、もしかしたらいるのではないかと思いますので、そういった方が分かるように、ぜひホームページ上に施工例を載せて下さい」
とおっしゃられたため、施工例を載せる事に致しました。
とは言え、結構複雑な工事だったため、文章かなり長めです。
(読み終えるまでに約5分掛かります)
室内の引き戸や引き違い戸に鍵を付ける場合、大きく分ければ次の4種類の錠前があり、その中のいずれかで対応いたします。
戸や枠の形およびお客様のニーズによって選ぶ錠前は変わってきます。
細かく分けていくと、キリがなくなるのでここでは大まかに分けた4種類について説明させていただきます。
※4(1)と4(2)は大きく分けると同じ面付本締錠と言う種類ですが、便宜上二種類に分けて説明いたします。
1引き違い戸錠
防犯性能に優れて、コストも低め。取り付けは条件に合うサイズの戸である必要があり、室内の引き戸の場合、ほとんど取り付け出来ない。
2チューブラー鎌錠
引き違い戸錠が使えない場合に広く使う簡易錠。鍵付きの物のほかに、トイレに使う表示錠などがある。簡易錠のため防犯性能と耐久性は低め。
3引戸鎌錠
引き違い戸錠が使えない場合で防犯性能を上げたい場合に使う。チューブラー鎌錠より耐久性もかなりあるため、店舗のトイレなどでも使用される。
4(1)面付本締錠
本来はドア用の錠前。防犯性能・耐久性ともに高い。
1.2.3の全てが使えない場合にはこのタイプを使う。(今回はこれを使用)
4(2)面付鎌錠
面付本締錠の仲間で、引戸用に先が鎌になっている。1.2.3の全てが使えない時に、条件によっては使えることがある。鍵は一般キーのみしか選択できない。
さて、室内の引き戸に鍵を新たに追加する場合は、室内と言えど、玄関用引き違い戸錠のPSSLが使用できる場合、それで対応した方が見た目・使い勝手・コスト上の事を考えると良いです。
ただし、彫り込む位置の枠に幅が必要であること、そして二枚の引き戸が重なる部分の面積が大きくあることが必要であり、取り付けれる戸をかなり選ぶ錠前であると言えます。
玄関の場合は、以上の条件をクリアしている引き戸が多いので問題ないのですが、室内用の物は鍵が付くことを前提として作られていないものが多く、ほとんどが使用出来ません。
今回も枠が狭かったため、PSSLを彫り込む事が出来ませんでした。
引き違い戸錠が使えなかったため、他の三種類のうちのどれかで対応する必要がありました。
結論から先に言うと、最終的には4の面付本締錠で対応したのですが、以下にほかの二種類(2と3)の説明も載せておきます。
ちなみに注意点ですが、今回取り付けるガラス付き障子のように、左右二枚の戸が動く引き違い戸の場合、1の引き違い戸錠であれば、一つの錠前部品で、二枚の引き戸に鍵をかけて固定することが出来るので、一個で良いのですが、残りの三種類(2と3と4)の場合だとそうはいきません。
残りの三種類は、一つの錠前につき一枚の引き戸にしか鍵がかからないため、反対側の引き戸も同じように同じ錠を入れるか、もしくは違う錠を使って戸を固定をする必要があります。
(左右合わせて二個以上の部品が必要)
または、片方の引き戸しか使わない場合は、もう片方の引き戸を枠に釘などで固定して、嵌め殺しにする方法もあります。
(使わない方の一方を嵌め殺しで固定してしまった方が、二枚分の部品を用意する必要がないため、コストは下げられる)
それを踏まえて、以下の文章を読み進めてください。
今回のように、PSSLが使えない場合、基本的には、チューブラー鎌錠と呼ばれるものを使う事が多いです。
チューブラー鎌錠には鍵付きの物のほかに、トイレで使う表示錠タイプ(非常開錠タイプに表示窓の付いたもの)や、脱衣所などに使う、表示の付いていない非常開錠タイプなどがあります。
※チューブラー鎌錠を取り付けた時の施工例は、現在作成中です。
ただ、注意点としては、チューブラー鎌錠は室内用の簡易錠であるため、鍵付きの物でも、防犯性能は高くありません。
店舗のバックルームや事務所の一室で、防犯性能が必要な場合は、3で紹介する、引戸鎌錠の方が良いかもしれません。
また、耐久性も低めのため、トイレや脱衣場で使用される場合、一般家庭や事務所などで一日に数回程度の使用の場合は問題ありませんが、店舗などで毎日の使用頻度が高い場所にお使いの際は、やはり3のケースロックタイプの引戸鎌錠の方をおすすめいたします。
今回はガラス付き引き戸(ガラス付き障子とも言われます)のため、このチューブラー鎌錠は使えませんでした。
続いてこちらは、ケースロックと言う、戸の中に彫り込むタイプの錠前で、その中の引き戸用に鎌が出る、引き戸錠や引戸鎌錠と呼ばれるタイプです。
玄関などで使われることを前提としているものが多く、チューブラータイプよりも耐久性と強度に優れています。
また、シリンダー(鍵穴)部分には、ピッキングに強い物を選ぶことができるものもあり、防犯性能も高めることが可能です。
上の写真は、全国チェーンの24時間営業のレンタルビデオ店のトイレに引き戸錠(引戸鎌錠)を付けた時の写真です。
毎日の来店数が多く、使用頻度がかなり高い上、深夜の時間帯はいたずら防止のために、防犯性能が高めの鍵で施錠をしたいとのことで、鍵付きの引き戸錠を選択しました。
引き戸錠は、チューブラー鎌錠が取り付けできる場所であれば、だいたい取り付けが可能です。
ただし工事の難易度はチューブラー鎌錠と比べると、かなり難しくなります。
今回のガラス付き障子の場合、チューブラー鎌錠が入らないので、当然引戸鎌錠も取り付け不可でした。
そこで今回は、本来は引戸ではなくドアに使用する、面付本締錠と呼ばれる種類の錠前で対応いたしました。
面付本締錠の場合は、引き違い戸錠やチューブラー鎌錠で対応した場合に比べ、コストが上がってしまいます。
また、片引戸ではなく、両方開く引戸(引き違い戸)の場合は、引違いが出来なくなってしまいます。
しかしながら、今回のケースように、1.2.3のいずれの錠前も使えない戸へ、鍵をどうしても取り付けたい場合、これから紹介する面付本締錠でしか対応が出来ません。
4の面付本締錠の仲間で、かんぬき(デッドボルト)が鎌状になっていて、受け金具に引っ掛かる事で施錠する。
ガラス付き引戸の場合、ほとんど取り付け出来ないが、まれに取り付けできる場合がある。
ただし、鍵穴(シリンダー)部分は、対ピッキング性能5分未満の一般キーのみしか選択が出来ない。
(簡易錠のチューブラー鎌錠よりは防犯性能はずいぶん高い)
今回の施工例では、4(2)の面付鎌錠が使えないため、面付鎌錠についての説明はここまでといたします。
それでは、少し長々となってしまいましたが、ここから今回の引き戸である、ガラス付き障子へ面付本締錠を使用して、鍵を新規取付した工事について、紹介させて頂きます。
まずは、今回取り付ける事になった、室内にあるガラスが付いた引き戸(ガラス入り障子)は、以下の写真の物です。
そして今回取り付けた面付本締錠は次の物です。
真ん中や横の枠に幅がなく、鍵を取り付け出来ないため、面付本締錠と言うタイプの錠前を、引き戸の下部に取り付けました。
それではここから、この工事の様子を、順を追って説明してきます。
先ほどから長々と、なぜ面付本締錠を選んだかについて書いてきました。
面付本締錠に決めたら次は、左右の引き戸のどちらに鍵穴を付けるかについて決めねばなりません。
両方の引戸に鍵をつけてももちろん良いのですが、それだと金額が二つ分掛かりますので、コストの面から言うと、通常はどちらか片方のみに鍵穴をつけ、もう片方の方は、内側からしか鍵が掛けれない、内締まり錠にするのが一般的です。
今回のお家の場合、外から見て左側の引戸に鍵を付けることとなりました。
なぜなら、写真には写っていないのですが、右側の引戸を開けたところに、棚が設置してあるため、左から出入りした方が良さそうだったからです。
しかし、写真によく注目していただくとわかると思いますが、左側の引戸は奥のレールに載っており、右側の引戸が手前のレールに載っております。
この状態では、右の引戸に鍵は付けれますが、左の方には付けれません。
(理由は、説明が完成に近づくにつれてお分かりになられるかと思います)
上の三枚の写真を見て、左側の引戸の方が、奥のレールに載っている事がおわかりいただけたでしょうか。
このままだと、左側の引戸へ面付本締錠を取り付ける事が出来ないため、左右の戸を入れ替える事にしました。
入れ替えた後の写真を三枚、下に載せます。
上の三枚の写真と見比べて頂ければ、レールに載っている戸の位置の違いがわかると思います。
左右の戸と言うと、イメージが湧かなければ、手前と奥を入れ替えたと言った方がわかるかもしれません。
左側の引戸を、入れ替え前と後の写真とを並べると分かりやすいかと思いますので、並べた写真を載せます。
ただし、ここで注意が必要なのは、全てのお家で左右が入れ替えれるわけではないと言うことです。
入れ替えれない場合もあり、その際は鍵穴が取り付けできる位置がどちら側かに限定されてしまうと言うことをお伝えせねばなりません。
錠前の選定と、鍵穴の取付位置を決めるのに、時間が掛かりました。
どんな工事でもそうかもしれませんが、やはり工事をする前の段階で時間が掛かります。
焦らず全体をよく見て、どこに取り付けするのが、強度・お客様の使い勝手・見た目を総合的に判断してベストなのか、頭の中でよく考えて完成後をイメージします。
そしてイメージしたところへ取り付けるため、穴をあけていきます。
まずは鍵穴が付く場所へ穴をあけていきます。
ここでミスがあると、次から次へとズレが出てしまうため、ミスが許されない肝心要のところです。
シリンダー(鍵穴)が通る穴が開いたら、今度は面付本締錠の本体を取り付けるネジ穴を作っていきます。
こうして引戸に錠前が付けた後の写真が以下の写真です。
面付本締錠については、ほかのページでも説明を載せておりますが、改めて説明すると、面付とは、戸(もしくはドア)の面に取り付けるタイプの錠前を指す言葉です。
面付のほかには、ドアの中に入っているケースロック(彫り込み錠)やチューブラー錠、上下にデッドボルトが出るグレモン錠などがあります。
本締錠とは、ドアを一時的に係留するラッチボルトを持たない機構の錠前の事。つまりはデッドボルト(かんぬき)のみを備えたものを指す言葉。
ですから、面付本締錠とは、面に取り付けるタイプの、ラッチボルトを持たず、デッドボルトのみを備えた錠を指します。
面付タイプの錠前は、外側からかんぬきが見えない(直接かんぬきを破壊工具で攻撃されない)ため、防犯性能に優れています。
こうして本体が取り付け出来たので、今度はデッドボルト(かんぬき)が入る受け座(ストライクと呼ばれることもある)の部分を作成していきます。
今回は面付本締錠を下部に付けているので、下のレールの部分にデッドボルトが入ります。
そこに穴をあけていきます。
穴を作ったら、実際に鍵をかけてみて、かんぬきがスムーズに動くか確認します。
今動きが良いだけではなく、将来戸が歪んだりずれたりしてきたとしても、問題なく使えるかどうかも考慮します。
また、木の特性上、雨で湿気の日とカラカラに乾いた日では、膨らんだり縮んだりして大きさが微妙に変わりますので、天候が変わっても問題ないかまで考慮して、確認します。
以上を確認して、位置がOKであれば、穴をあけただけの状態では格好悪いので、飾りで平受け金具を取り付けします。
ただし、取り付ける部分が床面なので、つま先が引っ掛かって転んだりしないように、床面と同じ高さに彫り込む必要があります。
これで、面付本締錠の取り付けは完成です。
こうして、左側の引戸は完成しましたが、もう一個忘れてはならないのが、もう一対の方である、右側の引戸の固定です。
いくら左側の引戸の鍵をかけても、今の状態では、右側の引戸がフリーのため、右側から出入りされてしまいます。
そこで今度は右側の引戸の固定に入ります。
右側の引戸については、鍵穴が必要ない(内側から閉めれさえすればよい為)ので様々な方法を取ることが出来ます。
引戸を枠に釘などで固定して、嵌め殺しにして動かないようにするのが、一番コストがかかりませんが、将来荷物の出し入れなどで右側の引戸を開ける可能性もあるため、今回は嵌め殺しにはせず、必要時だけ固定できるようにしました。
今回は、コストなどを考慮して、プッシュラッチ(オートラッチ)を使う事にしました。
プッシュラッチは、上のボタンを押すとロックがかかり、横のボタンを押すと、バネの力でロックがパチンと音がして戻り、ロックが解除される物です。
通常は室内側に付けますが、“小さな子供が目を離したすきに戸を開けて中に入ったりしないように”と言った事故防止の目的や“ペットが勝手に入らないように”と言った目的で、室外側に付ける事もある部品です。
(小さなお子様の事故防止のために戸に取り付ける場合の施工例は、お子様の事故防止にオートラッチのページをご覧ください)
さて、そのオートラッチですが、今回はこのままの形だと取り付けが出来ないので、加工しました。
こうして、戸に合わせて加工したオートラッチを実際に取り付けた後の写真が以下の二枚の写真です。
戸にプッシュラッチをつけ、下に棒が入る穴を開け、鍵がかかっている状態の写真です。
以上で、左の引戸と右の引戸の両方とも工事が完了致しました。
通常は、ここまでで工事が完了するのですが、上の枠(レール)と引戸の間に隙間が多くある時は、鍵をかけた引戸を持ち上げられて、戸ごと外されてしまうことを防ぐため、外れ止めを作ってやる必要があります。
隙間がない場合は、鍵をかけた状態では、持ち上げられて外されてしまう心配がないのと、隙間がないのに外れ止めを追加してしまうと、戸の開閉が重くなり、スムーズでなくなってしまうので、追加することは出来ません。
ですが、今回のお家の場合、隙間がかなり大きくあったため、上部に外れ止めを作ってあげる必要がありました。
作成して上のレールに取り付けたものが以下の写真です。
以上で今回の工事は無事に完了しました。
今回の工事で取り付けた部品は、
左側の引戸:面付本締錠の本体+カバエースのシリンダー(鍵穴)
右側の引戸:プッシュラッチ
下枠レール:平受け金具
上枠レール:外れ止め
でした。
金額は、すべての部品代と工事費込みで、37000円(税別)(当店出張エリア内の場合)でした。
引き違い戸錠のPSSLや、チューブラー鎌錠が取り付け可能な引戸と違い、今回のケースのように、これらの錠前が取り付け出来ない引戸の場合、部品の点数が多くなってしまう関係上、どうしても金額が上がってしまいます。
ですが、今回のお客様は、鍵が取り付け出来ないだろうと諦めておられたそうで、鍵の取り付けができた事に対し、大変喜んで下さいました。
お家で初盆があり、たくさんの方が訪問してこられる予定があったため、鍵がかからず困っておられたとの事で、
「うちのほかにも、同じように鍵が付けれなくて困っておられる方がいるかもしれませんので、ホームページに施工例で載せてあげてください」
とおっしゃられましたので、施工例としてこのページを作成いたしました。
工事の方ですが、最初の方にもともと左の引戸が奥のレールに載っていて、右の引戸が手前のレールに載っていたのを入れ替えして、左の引戸を手前に、右の引戸を奥にしたのは、入れ替えをしなければ、下のかんぬきを入れるための穴を畳にあけないといけなかったからです。
また、右側の引戸のオートラッチの位置も、今回取り付けた位置以外に付けると、やはり畳にあけないといけなくなってしまうため、今回はこの位置となりました。
最後に、今回のように室内の引戸へ、鍵を取り付ける工事の場合、事前に写真を送って頂くことが必要となります。
最初の方で説明させて頂いた通り、引き戸の形によって、引き違い戸錠で対応する場合があったり、チューブラー鎌錠で対応することがあったり、今回のように面付本締錠で対応する場合があったりするのですが、それぞれで事前に準備する工具が違うためです。
また、戸の厚みによっては、そもそも取り付けが不可の場合もございます。
そのため、事前に写真の送付をお願い致します。
なお、写真の送付がない場合、お受けできない場合もございますので、何卒ご了承願います。
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それではこの辺で、今回のガラス付き障子へ鍵を取り付けた工事の説明を終わらせて頂きたいと思います。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。