トイレの打掛錠の修理

先日、福岡市中央区笹丘にある幼稚園のご担当者様から、トイレの鍵が壊れたので修理して欲しいとのご依頼を受け、行って参りました。内側から鍵が掛かってしまった時のために、非常解錠があるのだが、いくら非常解錠の部分を回しても、鍵が空回りして開けられないとの事でした。

 

行って見ると打掛錠と言うものが付いていました。

打掛錠(解錠時)
打掛錠の写真(解錠時)
打掛錠(施錠時)
施錠時の打掛錠の写真

 

皆様の中にも、高速道路のパーキングエリアや、公共施設のトイレなどで見たことがあるという方がおられるかもしれません。

この打掛錠は、構造が非常に簡単でなおかつ頑丈なものなのですので、通常はなかなかそう簡単に壊れるようなものではないはずなのですが・・・

 

問題の壊れている非常解錠の箇所

 

非常解錠のシリンダー部分を見て、なぜ壊れたのかすぐに分かりました。

打掛錠の表の非常解錠部
非常解錠のシリンダー部分。プラスチックのくぼみをコインで回すようになっている。
非常解錠部の裏側の写真
こちらは裏側の写真。プラスチックが割れて動作用の金属の板が取れている。

 

打掛錠とは、金属の棒を回転させ、受け金具に引っ掛けることで施錠するタイプの錠前です。当然その金属の棒は、それなりに重いものとなっています。

この幼稚園に付いている打掛錠は、非常解錠として外側から開ける際、金属の棒を回転させて引っ掛かりを解除する時に、プラスチックのくぼみにコインなどを引っ掛けて回す構造でしたが、問題はここにありました。

 

なぜなら、ここに付いている打掛錠は、プラスチックをコインで回すと、裏側にある金属の板が連動して動き、その板が重い打掛錠の金属棒を回すと言う構造なのですが、そもそもプラスチック自体はそんなに強度があるものではないし、経年劣化でだんだんと脆くなっていきます。

 

それゆえに、一度や二度非常解錠措置で回したくらいでは大丈夫でしょうが、何度も回すとなると、当然金属棒の重さにプラスチックが耐えられず、いつかの時点で、プラスチックが割れるのは当然の事と言えるでしょう。

 

とくにここは幼稚園です。非常解錠措置をする回数が、そもそも他の施設のトイレに比べて多かった可能性は十分考えられます。

 

急ぎで修理せねばならない。打掛錠は高い。

 

さて、この幼稚園では近々夏祭りが行われるそうです。

その夏祭りでは外部から沢山の方がこの幼稚園に訪れるとの事で、当然トイレを使用する人もたくさんいることが予想されるとのことでした。

そのため、何としてでも夏祭りまでには修理を完了せねばならないとのことでした。

 

新品を注文する事も可能ではありますが、打掛錠と言うのは、色んなメーカーが作っていて、メーカーによってまちまちではありますが、概してどのメーカーの打掛錠も、部品代が高い気がします。

 

また新品の打掛錠に交換したとしても、同じメーカーのものだったら、いつの日にか今回と同じようにプラスチックが割れて壊れるかもしれない。

かと言って、他のメーカーの頑丈そうな打掛錠に替えると、切り欠き穴の寸法が違い、穴を追加したり、既存の穴を隠したりの大工事になる可能性もある。

そもそも新品の打掛錠を注文したとして、夏祭りまでに部品が届くのかも疑わしい。

 

どうしたものかと随分と悩みました。

 

部品を自作して頑丈に作ろう

どうするのが一番ベストなのか、本当に色々と考えました。

考えた結果、

「そうだ、壊れている部品を自分で作ってしまおう。そして作るからには強度が上がるようにして、頑丈な打掛錠にしてやろう」

と言う結論に達しました。

 

車の中を探していると、ちょうど不要になったステンレス製の金属の部品が出てきました。

 

加工前の金属の塊

 

「よし、この金属の廃材から、今回打掛錠に使いたい部品を切り出そう」

と思い、頭の中で形を色々と思い浮かべ、そして実際にディスクグラインダーを使い、部品を切り出しました。

 

部品切り出し後の金属の塊
切り出して作った部品

 

この右下の板状の変な形のものが、切り出して作った部品です。

写真ではわかりづらいのですが、先っぽの丸みを帯びた部分は、見える部分でもあるし、手でつまむところとなるので、この部分はバフ掛けをして、鏡面加工を施しました。

 

そして切り出して作った板の先っぽをバーナーで炙ります。

 

 

金属部品をバーナーで炙っているところ

 

高温になって色が変わるまで炙り続けます。

 

炙り続けて高熱で色が変わった金属部品

 

そして熱々になったら、打掛錠の非常解錠のシリンダー部分に差し込みます。

熱々の金属がプラスチックを溶かしながら入っていきます。

 

完成したのが下の部品。

 

裏側
完成した部品。プラスチックが少なく強度が低い。

 

完成したは良いが、もともとプラスチックが割れてしまっているため、プラスチックの量が少なく強度が足りない。

その為、ゴミ箱に入ってあったペットボトルの蓋を利用して強度を上げます。

 

この蓋を溶かし、溶着していくのです。

 

ペットボトルの蓋で補強した非常解錠部
溶着し補強した後の写真

 

マイナスドライバーをバーナーで熱々に炙り、そのマイナスドライバーでペットボトルの蓋を溶かし、溶けた蓋をシリンダーに溶着していき、補強していきます。

 

金属部品を差し込んだ所
完成した非常解錠のシリンダー

 

さて、上の写真は非常解錠のシリンダーを表から見たところです。

完成前の物の写真と並べると、違いがわかるかと思います。

 

 

非常解錠のシリンダーの加工前加工後

 

左が加工前、右が自作した部品により加工を施した後です。

 

これまではコインをくぼみに差し込み、プラスチックをコインにて回し、それと連動して金属の板が回り、そして打掛錠の重い棒が回転し、受け金具から引っ掛かりが外れて鍵が開くと言う構造でしたが、今度は直接指で金属の板を回し、それが打掛錠の棒を動かすと言う構造に変わりました。

 

プラスチックが最終的に重い棒を回すのと、直接金属の板が棒を回すのでは、どちらが長持ちするかお分かりかと思います。

 

さらに、余談ではありますが、金属のつまみ部分は、衣服が引っかかって破れる事のないように、全体的に丸みを帯させ、さらに頻繁に回すものではありませんので、衣服などが引っかかったり、子供が身体をぶつけないように、わざと小さめに作っています。

小さく作ることで、打掛錠の棒を回すのに力が必要となるため、子供の力では回せなくなり、大人しか操作が出来なくなると言う利点がありますし。

 

そんなこんなでようやく完成

そんなこんなで、どうしようか悩んだり、また実際にステンレスの廃材から金属の板を切り出したりと言う作業があったため、結構な時間を費やしました。

 

閉園時間までには終わらせねばならないと言う制約がありましたので、最後は結構バタバタと言う感じになり、トイレのドアに取り付けた後の写真を撮り忘れました。

 

取り付けたあとは、幼稚園の先生方がとても喜んで下さいまして、まさかこんな使い易いものに生まれ変わるとは思いませんでしたとお褒めの言葉を下さいました。

 

そして、作業完了後よく冷えたスイカをご馳走して下さいました。

 

幼稚園で頂いたスイカ

夏の暑い中、火を使ったり、ディスクグラインダーの火花を浴びまくったりして汗だくで熱くなった身体に、冷たいスイカが染みました。

本当に有難かったです。

 

今回の作業料金は、部品代等含めて、税別10000円でした。

悩みながら物を作っていく楽しい現場でした。

 

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